COLUMN
コラム
家づくりに役立つ豆知識やポイントなどを詳しく説明いたします。
時を重ねてなお、美しく。天然顔料「ベンガラ」が彩る、深みのある住まいづくり。
日本の古い町並みを歩いていると、どこか懐かしくて、落ち着いた赤茶色の家並みに心がふっと和むことがあります。
その“和の風情”を演出しているのが、天然の無機顔料「ベンガラ(弁柄)」です。
時を超えてなお色褪せず、やわらかく深い赤褐色を纏ったベンガラは、かつて日本の町家や土蔵、漆喰壁、木部の塗装などに幅広く使われてきました。
そして今、その自然由来で身体にやさしい特徴から、再び注目を集めているのです。
今回は、そんなベンガラの魅力と住宅建材としての活用方法、メリットやデメリットをわかりやすくご紹介します。
◆ベンガラってなに? 〜土から生まれた天然の赤い宝石
ベンガラは、「酸化鉄(Fe₂O₃)」を主成分とする赤系の天然顔料です。
元は鉄を含む鉱石や粘土を焼成し、粉砕・精製することで作られます。
かつては岡山県高梁市の「吹屋(ふきや)地区」が日本一の産地であり、今も赤いベンガラ塗りの町並みが残されています。参照:岡山観光WEB
その赤は、華やかさよりも落ち着きや重みを感じさせ、日本人の美意識と深く結びついています。
◆ベンガラを使うメリット
建材としてのやさしさと美しさ
🌿1.化学物質を含まない、安心の自然素材
ベンガラは化学顔料ではなく、鉄分と熱だけで作られた完全無機の天然素材。
ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)を含まないため、アレルギーやシックハウス症候群の心配も少なく、小さなお子さまやペットのいるご家庭でも安心です。
🧱2.色あせにくい、高い耐候性
ベンガラは日光や風雨にとても強く、時間が経つほどに風合いが増すのが特長。
古民家の外壁や木部に多く使われていたのは、単に美しさだけでなく、色持ちの良さがあったからこそです。
🪵3.木材や漆喰との相性が抜群
自然素材同士の組み合わせは、見た目の統一感も空間の調和も美しく整います。
特に、漆喰・土壁・無垢材などとの相性がよく、塗装後も素材が呼吸できるため、家の中の空気も心地よく保たれます。
◆ベンガラのデメリット
取り扱いには少しだけコツも
🔧1.発色の個体差がある
天然素材ゆえ、採れる鉱石や焼き加減で色味にわずかな差が出ることがあります。
これは「一点ものの味わい」と捉えることもできますが、均一な仕上がりを求める場合には注意が必要です。
🖌️2.塗りに技術がいる場合も
ベンガラは、単体では粉末の顔料です。水や自然油と混ぜて使いますが、ムラなく塗るには経験が必要な場合も。 初めて扱う方は、工務店や自然素材専門の塗装業者に相談すると安心です。
💸3.コストはやや高め
合成塗料に比べると、材料費や手間がかかるぶん価格も高め。
とはいえ、10年20年と住む住まいに使うものだからこそ、安心や美しさに投資する価値は十分にあります。
◆暮らしに「余白」を。ベンガラの赤が語る、やさしい時間
ベンガラの赤には、どこか懐かしく、心を整えてくれるような静けさがあります。
それは、ただの「色」ではなく、自然と向き合って暮らしてきた日本人の感性そのもの。
暮らしの中に取り入れることで、**忙しい日々にもほっとできる「余白」**を生み出してくれるのかもしれません。
・玄関の木枠にほんのり赤を差して、あたたかく迎える表情を
・子ども部屋のアクセントに使えば、素朴でやさしい空気感に
・キッチンカウンターの塗装で、手しごとの風合いを楽しんで
「素材を選ぶ」ことは、「どんなふうに暮らしたいか」を選ぶことでもあります。
自然素材の家づくりに、色まで自然のものを選んでみる。ベンガラは、そんな丁寧な選択にふさわしい顔料です。
自然と共にある住まい。そこに流れるやわらかな時間。
そんな毎日を、ベンガラの赤がそっと彩ってくれるかもしれません。